すでに盛りを過ぎつつある秋ですが、食欲の秋はまだまだ! 秋の食の楽しみのひとつが、新米ですね。さて、そのお米、炊く前にまず「研ぐ」という作業があります。その際、皆さんは、どんな道具を使っているでしょうか。炊飯器の内釜のまま? ステンレスのざる? あるいは、竹などの天然素材のざる? 

最近では、精米技術が向上したため、特別な道具は使わずとも、お米を炊飯器の内釜でさっと洗うだけで十分だともいわれています。昔ほど必死になって研がなくても、糠くささのないおいしいご飯が炊けるのは事実ですが、実は、ある米とぎざるを使うと、一段とおいしいご飯が炊ける、と料理研究家の松田美智子さんがテレビ番組で言っていました。

それは、福島県奥会津・三島町でつくられた「マタタビの米とぎざる」です。会津若松からJR只見線で1時間半。冬は豪雪に閉ざされる秘境ともいえる山間の里・三島町。ここでは、縄文時代から、地元の植物素材を利用して、簔(みの)、かご、ざるなどの生活用品などがつくられており、現在でも、その技術は多くの住民=職人たちによって受け継がれています。とりわけ、マタタビや山ぶどうなどを使った「編み組み細工」の工芸品は、桐製品と並んで、いまや三島町の特産品とされています。

マタタギ製の美しい米とぎざる
マタタビの木肌と編み目が美しい、米とぎざる

そんな山の素材でつくられる特産品のひとつが、マタタビの米とぎざる。マタタビとは、ネコ科の動物を魅了することで知られる樹木で、三島町周辺の山に自生しています。冬の初めごろ三島町の職人さんはマタタビの木の細い枝を刈り取り、樹皮をはぎ、特殊な道具を使って4等分に分割し、その内側を削って平たいヒゴ状に。そのヒゴをカゴ状に編んでいきます。底の部分は「網代(あじろ)織り」で密に編み広げ、側面はタテ糸とヨコ糸を交互に織る平織りと同じ手順でヒゴを交互に差し込みながら、若干のすき間が生じるように編み上げていくのです。

ざるの底部分を編む
まず、マタタビのヒゴで底部分を編む
出来上がったザルの底部分
底から側面を編んでゆく
底部分から側面に立ち上げて編み進める
仕上がったマタタビ製のとぎざる

その後、冬の間、ざるを軒下にぶら下げて「寒ざらし」を行うことで、米とぎざるはより白くなります。そして、使っていくうちに変色するのが天然素材の生活道具の特徴です。三島町を取材したドキュメンタリー番組では、米とぎざるをつくる伝統工芸士の職人さんが、自宅で10年間使っている米とぎざるを披露。完成当初の白さとは異なり、経年変化によるアメ色がなんともいい味を出していました。

軒先に吊るして白くさらす―寒ざらし
冬季、軒先につるして白くさらす、寒ざらし(TV番組より)

マタタビの米とぎざるの利点は、なんといっても、当たりがやわらかく、お米を傷つけない点、そして水切れのいい点。米を研いでいても、例えば金属のようなガチガチさではなく、適度にやわらかい感触が手に伝わってきます。そして、水切りも短時間でOK。そうした特徴のせいか、ご飯がふっくら炊き上がるようです。一方、欠点といえば、使用後すぐにしっかりか乾燥させないと、残った水気で素材がカビて黒ずんでしまうことに。

私が使っているものは使い始めてからちょうど5年たちましたが、当初、乾燥をちゃんとできずにカビさせてしまったせいか、全体に黒ずんでいます。が、決して安くはない道具でもあり、毎回、使ったあと天日干しをするなどしてなんとか使い続け、いまでは私の炊事に欠かせない道具のひとつとなっています。

ご飯好きだけどひとり暮らしの私が、いわゆる白米を研ぐのは2週間に1回ぐらい、おもに季節の炊き込みご飯をつくるときに。それ以外は、1週間に1~2回、一分づき(一番外側の皮だけ取り除いた)玄米をチャチャっと米とぎざるで研ぎ洗いをする程度です。

この米を研ぎ、洗う行為、三島町の米とぎざるを使うようになってから、おいしいご飯を食べるための儀式のように、特別なことになったような気がします。もちろん、ご飯が炊き上がったときの感激も、毎回、新鮮に感じています。こんなふうに、普段の生活において、何気なくテンションを上げてくれるのが、手仕事による道具ならではの味わいなのではないでしょうか。

とぎざるでといで炊いた米で作ったご飯
春にはグリーンピースご飯、夏にはとうもろこしご飯、 秋には栗やきのこのご飯といった季節の炊き込みご飯は、やはりおいしく炊きたい

このマタタビの米とぎざるを私が入手したのは、三島町の「ふるさと会津工人まつり」。このイベントなどについては、次回のブログで。