私の好きなお茶― 静山

どういうわけか、子供の頃からお茶が好きでした。そんな僕が生涯の友とも言えるお茶にめぐり合ったのは、たしか昭和58年頃でした。以来、今日までずっと同じお茶を飲み続けています。

その頃、知人から紹介された不動産屋の社長さんに「ここは値上がりしますよ」と勧められて、東京の中央線は高円寺駅の近くに中古の小さな家を購入したばかりでした。駅から商店街に入ってすぐの左手に「茶処つきじ」というお店があります。お茶はこのお店にありました。「静山」という銘がついています(この名前も気に入っています)。値段は100gで500円。静岡の藪北という品種、深蒸し、そして露地ものです。
「露地もの」というのはハウスではなく自然の環境で育てたもの、ということですね。露地とは、雨や露がじかにあたる地面、茶室へ通じる庭内の通路、または茶室の庭。「路地」とも書きます。仏教用語では、俗界を離れた静かな境地、だそうです。
英語で露地ものに相当する表現は、garden-grown とか raising outdoors あたりのようですが、イマイチ風情がありませんね。紅茶の世界だと、何か含蓄のある言葉があるのかもしれません。どなたかこのあたりのウンチクを披露してくれる人はいませんか?

千利休は露地のことを「浮世ノ外ノ道」と言い、茶の湯の世界を日常世界から隔絶する結界としての役割もある、と言っています。おいしいお茶を飲んで、浮世の煩悩からしばし解き放たれた時間を過ごせれば、一石二鳥。

閑話休題

さて、静山とのめぐり合いは、私の母校の先生のお宅を訪ねたことがきっかけです。ある用事で先生宅を訪ねた折に、奥さんが出してくれたお茶を一口飲み、今までに味わったことのないまろやかな味で、思わず「あの、このお茶なんというお茶ですか」などと奥さんに尋ねてしまいました。奥さん、微笑みながら「フカムシ茶です。静岡のものですね」。「フカムシ茶」が「深蒸し茶」であると教えられ、その名前をしっかり記憶に刻みつつ、帰りに買っていこ、と決心していました。帰路、新宿のデパートに寄り、フカムシ、フカムシ… と物色しているとすぐに見つかりました。静岡のものを選んで購入。急ぎ足で家にたどりつくや、早速お湯を沸かして淹れてみました。「う?ん、なにか違うなぁ」。どうも、先生のところでいただいたあの味ではありません。と、そういえば、駅前でいつもお茶を煎る香りがしていたなぁ、と思い出し、そういうところなら良いお茶があるかもしれないと思い、明日寄ってみることにしました。翌日、商店街を歩いているとお茶を煎る香りがします。ああこれだ、と思いつつその香りに牽かれるようにしてたどり着いたお店が「つきじ」だったのです。お店に入って深蒸しのお勧めの銘柄をと頼むと、「これが値段も手ごろでよろしいかと」と出されたのが「静山」でした。

その後、同じお店でもっと値段の張るお茶に切り替えてみたり、他の店で買ってみたりと、色々な種類のお茶を試してみましたが、結局、「静山」にもどってきています?別に「つきじ」の宣伝をしてくれと頼まれているわけではありません、ホントに。たいていの人がおいしいと言ってくれています。ひょっとしたらそれはお愛想なのかもしれないのですが… 味覚も人それぞれなので、どうってことない、という人ももちろんいるでしょうけれど、私はこれからもこのお茶を飲み続けることでしょう。

このお茶に接していてひとつ思うのは、作りの「丁寧さ」です。このお店にはきっと自分のお店の味を出そうと一所懸命頑張っている親父さんやあるいはその後継ぎがいるに違いない、そう思わせる丁寧さですね。

1件のコメント

  1. うらやましい限りです。
    お茶と言うものはしょせん嗜好品。自分の好きな味・飲み方が本当の美味しい「お茶」なんですが、多くの方が自分に合ったお茶を探し当てることができないでいます。Kazuさんのように友となるような茶に出会えた方は本当にすばらしいと思います。
    私も最近やっとkazuさんのように友となれそうな茶を見つけ出せたような気がしていますが、色々なお茶を経験したうえで知識としていかなければならないため、なかなか一つのお茶だけを飲み続けることができない寂しさがあります。(我が家では常に異なるお茶のため、少々閉口しているようです?)
    美味しいお茶に出会えず悩んでいる方って結構たくさんいます。私達は機会があればそんな方々に一日でも早く生涯の友となれるような茶を探すことができるようお手伝いをしております。
    そのためには、茶葉の性格にあった一般的な飲み方や購入方法をお勧めし、その後は自分流で飲んでもらうようにしています。ただ、立場上また私の少ない経験ではなかなか店名までお教えできないところが、なんとも歯がゆい限りです。
    4月8日に40人の方に手摘みから手揉み茶作りまでの指導をしてまいりました。その際に皆様と色々なお話をさせていただきましたが、飲み方・保管方法等ほぼ全員が悩んでいらっしゃいました。
    「藪北」は全国シュアの約80%の生産量がある茶樹種の良品です。
    茶のほとんどは言い換えれば「露地」物です。
    茶の製造方法は多様化する消費者のニーズによって日々変化しております。その中で変わらぬお茶に出会えたことをこれからも大切にして下さい。(極端には機械が変わるだけで味も変わります)
    いつの日か機会があったら「静山」を飲んでみます。

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